「田舎の公共交通問題はライドシェアで解決しない」ことを、ライドシェア賛成派の政治家が説明してくれた

奈良市の政治家、西川成悟氏( (西川せいご https://twitter.com/se2008dogdo )がライドシェア解禁を訴えていたので、ちょっと質問を投げかけてみました。

氏は自営業で、2021年7月11日の奈良市議会議員選挙に無所属新人で立候補するものの、得票数1610票で敗れた方のようです。

事の発端

発端は、X(旧Twitter)で氏が次のようなポストをしていたことでした。

どこでタクシーを呼んだのか定かではありませんが、位置情報からして兵庫県なのでしょうか。タクシーを時間指定で予約しようとしたら断られてしまったそうです。

最近はタクシードライバーの担い手がおらず、厳しい状況と聞きます。しかし、これに関してはタクシー会社の配車システムに改善の余地があるように思いますし、一足飛びにライドシェア解禁という理屈は分かりません。

ライドシェア解禁で交通を市場原理に任せれば、需要の多いところにクルマが集中し、逆に田舎では利用できなくなることは容易に想像できます。
また、現在のタクシーには営業エリアがあり、エリア外での営業はできませんが、ライドシェアはそうではありません。ライドシェアが解禁されればタクシードライバーの多くはライドシェアドライバーに転向して都市部に行ってしまうでしょう。

そこで、次の通り質問を投げかけました。

質問

氏からは、次の通り返答を得ました。

そもそも、現在のタクシーもバスも多くは個人や民間です。
民間で成り立たなくなったところは税金が投じられ、3セク、コミュニティバス、自家用有償旅客運送等で維持されています。現状民間で成り立たないところを個人や民間でカバーするとはどういうことなのでしょう。

タクシードライバーの方によれば、高齢者の移動は午前中に集中しています。朝一番に病院に行って、買い物に行って、昼前に帰るのです。
ライドシェアを解禁しても、クルマを持っている現役世代は日中は仕事をしていて、ドライバーはできないでしょう。朝は出勤と重なるのでいいとして、ライドシェアに乗っていった高齢者はお昼どうやって帰るというのでしょうか。

また、奈良県のバス会社である奈良交通は赤字路線をたくさん抱えています。奈良市と生駒市の黒字で赤字路線を賄い、どうしても採算が合わないところは自治体が税金を出しています。
代替手段ができるとなれば、自治体は税金交付をやめますし、奈良交通は速攻で赤字路線を廃止にするはずです。

さらに質問を続けます。

次の通り返答がありました。

先に述べた通り、朝は出勤と重なるのはその通りです。でもお昼は?

運転する人は、会社に縛られたくないワーカーたちが出てくるという新たな主張が出てきました。
これも上で述べたとおりで、会社に縛られたくないワーカーは、需要が大きい都市部、大阪や京都に行くでしょう。奈良県内なら奈良市街や生駒市街です。これでは田舎の交通網が滅んでしまいます。

さらに、赤字路線は税金が投じられている、競争を促すべきだという主張が出てきました。しかし、残念ながら競争にはならず、奈良交通は喜んで田舎から撤退し、都市部に集中するでしょう。
そもそも奈良交通の赤字はみんなクルマ移動ばかりで使わないからです。もっと使えば税金補填は減らせます。ガソリン高いと嘆くならバスに乗ればいいように思います。

町のためを思って赤字路線を運行してくれている既存の事業者を追い出し、外資も参入させるというのが、議会という奈良の未来を作る立場を目指す方の発言なのは残念です。

さらに質問と、こちらの主張を投げかけてみます。

質問

返答

ひよわの主張

返答

だんだん返答の文体が悪くなってきましたが気にしないことにします。

まず最初の返答。市場は需要と供給が決めるので予測はできないとあります。
しかし、奈良の田舎と京都市・大阪市の需要を比べれば、後者の方が圧倒的に多い訳で、そこに供給が集中するのは容易に想像できます。

「奈良の田舎でライドシェアで稼げるなら、都市から戻ってくる人がいる可能性」があるそうです。
しかし、可能性と言ってしまえば、「奈良の田舎でライドシェアで稼げず、都市に人が取られて行き、田舎の交通が滅ぶ可能性」だってあります。

結果として、田舎は今よりもっとクルマがないと生きていけない世界になるでしょう。

次に、ひよわの主張に対する返答。

誰も利用しないから赤字なのはその通りです。
使いづらい、高齢者はバス停まで歩けないという主張を展開し、税金で空気を運ぶバスは要らない、ライドシェアならクルマを持たなくても自由に移動できるのでクルマ依存を減らせるとしています。

ひよわはクルマを持ってないのでバスを使いますが、今はダイヤもネットで見られるので、本数が少ないのは計画でカバーできます。
高齢者がバス停まで歩けないのは、いよいよ運転できなくなってから免許を返納するからで、クルマ依存が生んでいる現象と言えます。
卒免に向けて運動をされている方はそんなことはありませんし、私の地元京田辺では、高齢者がバスでスーパーに買い物に行くシーンをよく見かけます。

さらに突っ込みます。

返答

矛盾が生まれた

まず、「田舎にも人は居るので、タイミングが合えば送迎できる」という主張です。

乗る側: タイミングが合うとき → 送迎を受けられる
運転側: 送迎できる → タイミングが合うとき

なので、「タイミングが合えば送迎できる」は必要十分条件です。この場合、逆も真で、タイミングが合わないときは送迎を受けられないことになります。行きたい時に行きたい場所に行ける「自由な移動」とは言えません。
21:16の氏の発言「クルマがなくても自由に移動できる」と矛盾が生じました。

次に、「海外にはあるが日本にはないサービスなので予測は無理、やってみれば分かる」という主張です。
これは海外事例を見るのが早いでしょう。

Barriers to Independent Living: Ride Shares(自立生活への障壁 ライドシェア)という記事がありました。

https://www.accessibility.com/blog/barriers-to-independent-living-ride-shares

Rideshare companies use a business model based on drivers using their own cars, often cars that cannot install wheelchair ramps or lifts. However, as these companies continue to grow and shift the transportation landscape, their need for broader accessibility also grows. This is especially true as the ridesharing industry overshadows taxis today. The majority of taxi companies have wheelchair-accessible vehicles in their fleets. Still, the road to wheelchair-accessible ridesharing is slow.

As of 2019, Lyft offered wheelchair-accessible vehicles in eight cities in the U.S. and in Toronto. For passengers outside of those larger cities, the ridesharing app would text passengers information on local alternative services as opposed to trying to accommodate them.

ライドシェア会社は、ドライバーが自分の車を利用するビジネスモデルを採用しており、多くの場合、車椅子用のスロープやリフトを設置できない車を利用している。しかし、このような企業が成長を続け、交通事情を変化させるにつれて、より広範なアクセシビリティに対するニーズも高まっている。特に、ライドシェアリング産業が今日のタクシーの影を薄くしているため、その傾向は顕著である。タクシー会社の大半は、車椅子対応の車両を保有している。それでも、車椅子対応のライドシェアへの道のりは長い。

2019年現在、Lyftは米国の8都市とトロントで車椅子対応の車両を提供している。これらの大都市以外の乗客に対しては、ライドシェアリング・アプリは、乗客に便宜を図るのではなく、地元の代替サービスの情報を乗客にテキストで送ることになる。

論文ではないので正確性には欠けますが、なるほど、これまで車椅子の方の送迎を担ってきた車椅子対応タクシーが、ライドシェアの普及によって追われ、結果的に車椅子使用者の移動が困難になっているという問題があるようです。

これは担い手の不足が原因でしょう。利益の点だけで言えば、乗降に時間がかかりさまざまな配慮が必要な障碍者を乗せるよりも、健常者だけを乗せた方が儲かります。タクシードライバーはより儲かるライドシェアドライバーに転向していったのでしょう。しかし、これでは車椅子使用者が生活できなくなってしまいます。

日本でも、車椅子での乗車を拒否したタクシー会社がたまに怒られていますが、ライドシェアを解禁すれば同じことが起きるでしょう。結果として、新たに税金を投じて要介護者向けの送迎サービスを維持する必要が生じます。

最後に、大柳生口を通るバスに乗ってみろという主張です。大柳生は氏の出身地ですね。
大柳生口に何があるのかは存じませんが、その先の柳生にある柳生藩家老屋敷には興味があります。近いうちに氏の指示通り乗りバスしてみることにします。

上の2点についてさらに質問します。

返答

介護サービスは、ライドシェア関係なく元々滅びる運命だったのでは、という主張です。
確かに介護は利益が出るものではないので、可能性はありますが、担い手の減少によるものである可能性が高いことは上で示した通りです。

次に、アプリで好きなときに呼べるので移動は自由だという主張です。先ほど、「タイミングが合えば送迎ができる」と主張されており、それはタイミングが合わなければ送迎サービスを受けられないことを意味し、自由ではないことも上で示しました。

さらに矛盾

以下、「移動の自由」と「必要な送迎」の2点について、最後までお見せします。

移動の自由

ありゃ、ドライバーいなければ移動できないことを認めてしまいました。来るときに動けばいいそうですが、これでは行きたい時に行きたい場所に行くことができません。

さらに、氏は20:57の返答で、「奈良交通は赤字路線を廃止したい」と主張していました。ライドシェアが解禁されれば赤字路線バスは廃止されますから、バスという選択肢はなくなります。ここにも矛盾が生まれてしまいました。

さらに突っ込みます。

ライドシェアの有無に関係なく、過疎路線は撤退されてコミバス化しているじゃないかという主張です。これはその通りです。

しかし、コミバスは赤字路線を税金で運営している最たる存在です。氏は、ライドシェア解禁によって赤字路線への税金投入は止めろと主張していますので、コミバスこそ真っ先に無くなるでしょう。

しかし…

うーん、ズレてないと思うんだけどなー。

なんとなく、氏も自身の主張に矛盾があることは気づいていそうです。お疲れさまです。

必要な送迎

要介護者の送迎が滅びかけているという話だったのに、タクシーも暇してるならライドシェアすべきという話になってしまいました。
タクシーはそもそもシェアサービスですという説明をしたところ、タクシーが来ないから吠えているのだという主張をされました。

しかし、このページ冒頭に貼った氏のポストでは、「タクシーのサービスが悪い。時間指定しようとしたら断られた。」という話だったはずです。
最終的に17時にタクシーに乗れたかどうかは明かされておらず、タクシーが来なかったのかは読み取れません。

冒頭でも述べた通り、タクシーの時間指定ができないのはタクシー会社側に改善の余地がある問題で、一足飛びにライドシェア解禁という結論には至らないはずです。
田舎でライドシェアが成立しないことは「移動の自由」の項目でお認めになられたので、そこをつついてみます。

暴言で締めくくられてしまいました。本当に残念です。

落とさなければいけない議員をきちっと落とした奈良市の有権者の皆様に、心から拍手を送ります。

氏が教えてくれたこと

  • 田舎でライドシェアを実施すると起きること
    • 既存のバス・タクシーは撤退する
    • 田舎では、運転者の移動とタイミングが合わなければ、ライドシェアによる移動は望めない

結果的に、移動の自由とはほど遠い生活になることが分かりました。

最後に、筆者ひよわの主張

公共交通を積極的に使い、乗務員の待遇を上げて担い手も増やし、維持発展させることで、自身が高齢者になっても住み続けられる街が作れます。

ガソリンも高い昨今ですし、今一度マイカー利用を見直し、公共交通に回帰してみてはいかがでしょうか?

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